障害就労のフェアトレード「 ウェルフェアトレード」を考える
NPO法人障がい者就労支援事業共創ネットワーク(K-NET!)ではウェルフェアトレードのついて話合いを続けています。今まで話し合ってきたことを簡単にまとめました。
フェアトレードとウェルフェアトレードの共通点は?
ウェルフェアトレードという言葉が出てきたのは、数年前からだと思います。フェアトレードに関連した言葉だろうと想像していましたが、その時は深く考えるまでには至りませんでした。
フェアトレードは以前は意識の高い人が知っている言葉のようでしたが、最近では徐々に存在感を増してきています。消費者庁の調査による言葉の認知度は27.3%に達しています。(イギリスに比べるとまだまだですが)SDGs(持続可能な開発目標)やエシカル消費(消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと)の動き、そして大手企業による参加が後押しをしているようです。
フェアトレードの定義を改めて確認すると「公平・公正な貿易」。つまり、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」です。
さてフェアトレードから派生したウェルフェアトレードですが、Welfare(社会福祉)とFair Trade(公正な取引)を掛け合わせた造語で、その定義は、一般的には(多く引用されているのは)、「障害のある人などが生産する者やサービスを適正な価格で取引し、働く喜びややりがいや自立を支援する仕組み」ということです。
フェアトレード、ウェルフェアトレードの両方に共通で、かつ重要な点は、
◎適正な価格で継続的に取引をする
◎生産者の自立を支援する
の2点になります。
「適正な価格で継続的に取引をする」「生産者の自立を支援する」ため、フェアトレードでは、国際フェアトレード基準を設定し、生産者の対象地域、対象産品、生産者基準、トレーダー(輸入・卸・製造組織)基準を定めています。生産者とトレーダーはこの基準を守り、生産や取引を行います。そして最大の特長は、
◎トレーダーは最低価格で購入する
◎トレーダーはプレミアム(奨励金)を保証する
というものです。プレミアムは生産者の地域、社会、環境の持続可能な発展のために、民主的に運用されます。
フェアトレードでの取引は単に「良い条件で取引をする」というだけではなく、その成果は、「生産地の地域、社会、環境が良くなること」にあります。
ウェルフェアトレードの運用を考える
ウェルフェアトレードを、フェアトレードの名前だけでなく、この運用になぞらえて考えてみました。
ウェルフェアトレードの定義が「障害のある人などが生産するモノやサービスを適正な価格で取引し、働く喜びややりがいや自立を支援する仕組み」なので、障害者就労継続支援A型事業やB型事業、ソーシャルファームといった事業そのものを指していると理解できます。これらの事業の活性化は多くの人が望んでいる事で、フェアトレードの運用になぞらえて考えることで、活性化のヒントがつかめるかもしれません。
ウェルフェアトレードのプレーヤーには、どのような人たちがいるでしょうか。
◎生産者=障害のある人、障害のある人の働くを支える人(職員)
◎売り手=障害のある人の働くを支える人(職員)、共同受注窓口、仲介者、販売者
◎消費者=個人消費者、企業、団体
◎支援者=ボランティア、良さを伝える人
そしてプレーヤーの動きは次のようになります。
◎生産者が作ったモノ・サービスを、生産者が直接、消費者(企業団体、個人)に販売する。
◎生産者が作ったモノ・サービスを、売り手/トレーダー(共同受注窓口、卸、仲介者、店舗など)が購入して、消費者(企業団体、個人)に販売する。
取引(しくみ)の目的が
◎適正な価格で継続的に取引をする
◎働く喜びややりがいや自立を支援する
ことなので、この取引が成立するために生産者やトレーダーに守るべき基準があるかどうかが最初の課題になります。
取引の基準がないと、例えば次のような疑問や不安が生まれてきます。
・取引が適正な価格かどうか分からない
・工賃がきちんと支払われているかどうか分からない
・働く喜びややりがいや自立を支援になっているか分からない
フェアトレードになぞらえて、ウェルフェアトレードの生産者基準を考えるなら、例えば次のような項目が入ってくるのではないでしょうか。
・品質の担保をする
・品質基準を満たすための合理的配慮を行う
・障害者のスキルアップを図る
・支援者のスキルアップを図る
・「適正な価格」を設定する
・合理的な方法で工賃の支払が行われている
そしてトレーダー基準(共同受注窓口、卸、仲介者、店舗など)を考えるなら、例えば次のような項目でしょうか。
・透明性のある契約を結ぶ
・持続的な取引を促進する
・適正な価格での取引を促進する
フェアトレードのプレミアムに相当するものが、障害者優先調達法による発注になるかと思います。
取引に求められる基準を満たした生産者やトレーダー(共同受注窓口、卸、仲介者、店舗など)には、フェアトレードと同じように、それを証明するラベルが必要になるでしょうし、その基準が守られているかの監査も必要になってくるでしょう。
消費者の変化―SDGsやエシカル消費
消費者にも変化が起きています。変化の背景は、SDGsやエシカル消費です。
消費者庁の調査によれば、【エシカル商品・サービス 購入状況・購入意向】に関して「購入意向あり」と回答したのは82.1%、【エシカル商品・サービス購入したいと思う理由】では「似たような商品を買うなら社会貢献につながる方がよい」59.4%、【エシカル消費につながる商品であるとわかる表示があった場合と、ない場合を比較した購買意欲の変化】では「表示された商品と他の製品を比較して購入を判断する」50.9%となっています。
同じ買い物をするなら社会貢献になる買物したいと思い、社会貢献になることが分かるように表示してあればそれを選択する、という消費者がとても多いということです。
ここで生産者側から疑問が生まれます。「障害者が作ったという理由で買ってもらうのではなく、品質がいいからということで買ってもらいたいので、あえて障害者が作ったというメッセージは出していない。これはどのように整理して考えたらいいのだろうか?」
品質が良ければ障害者が作ったというメッセージはものすごくプラスになるでしょうし(そもそもお涙ちょうだいにならない)、品質が悪ければ障害者が作ろうが誰が作ろうが売れないだけなので、障害者が作ったかどうかを出す出さないよりも、良い品質のものを作ることに専念したほうが良いのではないかと、個人的には思います。
そして消費者は自分の買い物がどのような社会貢献になっているかを知りたいし、知ることで、買い手として参加できることを喜びに思います。
一消費者のある方のコメントです。「消費者としては何かを購入すれば社会貢献になると思っていました。でも障害のある作り手側・作り手を支援する側から、売れたことで稼いだお金で、障害のある人がどのように生活改善するのか自立するのかが大事というご意見を聞き、身に沁みました。同時に、自分のように考えている消費者は多いと思うので、働き手である障害のある人の生活改善と自立の部分をもっと消費者に伝えることが大切だと感じました。」
ウェルフェアトレードに参加する―そのための課題は?
ウェルフェアトレードに参加するのは生産者、トレーダーだけではありません。
消費者の参加は何より重要です。
現在、生産者やトレーダーと消費者の間に大きな溝があると思います。この溝をどう埋めるか、この消費者の方のコメントにヒントがあるように思います。
ウェルフェアトレードは、「障害のある人などが生産するモノやサービスを適正な価格で取引し、働く喜びややりがいや自立を支援する仕組み」。生産者やトレーダーや消費者がそれぞれの立場でその取引のしくみに参加し、障害のある人の働く喜びややりがいや自立を支援します。
あなたはどのような立場で、どのように参加しますか?
=引き続き考えていく課題=
・取引での基準設定 生産者基準、トレーダー基準
・買い物の先にある、働き手である障害のある人の生活改善と自立の部分をもっと消費者に伝えるには?
・作り手としての参加、売り手としての参加、買い手としての参加
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